こんにちは!薬剤師テンパです。
世界中でパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルスの感染が、国内でも深刻化しています。
それに伴い、2020年5月7日に厚生労働省はアメリカのギリアド・サイエンシズ社が開発した抗ウイルス薬「レムデシビル」(商品名:ベクルリー)を新型コロナウイルスの治療薬として特例承認しました。
国内での新型コロナウイルス治療薬の承認は初めてです。
申請から承認まで3日間と異例の早さで承認された「レムデシビル」について、どんな薬なのか気になりますよね。
そこで今回は、新型コロナウイルス治療薬「レムデシビル」(商品名:ベクルリー)についてまとめています。
目次
特例承認とは
本題に入る前に少しだけ特例承認について説明します。
一般的に国内で新薬を販売するには、厚生労働省の承認を受ける必要があると医薬品医療機器法で定められています。しかし、これだと新薬が発売されるまで1年近く時間がかかってしまい、今回のような緊急事態には非常に困ります。
そこでいくつかの条件を設けて、健康被害の拡大を防ぐために、他国で販売されている日本国内未承認の新薬を、通常よりも簡略化された手続きで承認できるようにしたのが特例承認です。
過去の例としては、新型インフルエンザの輸入ワクチン「アレパンリックス(H1N1)筋注」、「乳濁細胞培養A型インフルエンザHAワクチンH1N1“ノバルティス”筋注用」があります。
メリット
必要としている患者の元へ、新薬が早く手に入る
デメリット
承認までの時間が短いため、通常の新薬に比べて有効性・安全性に関する臨床試験などのデータが少ない
医薬品の販売開始までの流れはこちら!
レムデシビル(商品名:ベクルリー)の特徴と効果
「レムデシビル」はアメリカのギリアド・サイエンシズ社が開発した抗ウイルス薬で、商品名は「ベクルリー」です。静脈に投与する点滴注射薬になります。
もともとはエボラ熱の治療薬として開発が進められてきた薬ですが、新型コロナウイルスの増殖を抑える働きが判明し、新型コロナウイルス治療薬として注目されるようになりました。
すでにアメリカでは、2020年5月1日より重症患者への緊急使用が認められており、引き続き日本でも5月7日に特例承認されました。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)の投与方法
詳しい用法・用量の注意点については「ベクルリー」の添付文書を参照して下さい。
用法
生理食塩液に添加した「レムデシビル」を、30 ~120 分かけて1日1回点滴静注。
用量
- 成人と体重 40kg 以上の小児
レムデシビルとして、投与初日に 200 mg 、投与 2 日目以降は 100mgを投与する。 - 体重 3.5kg 以上 40 kg 未満の小児
レムデシビルとして、投与初日に 5mg/kg 、投与 2日目以降は 2.5mg/kgを投与する。
投与期間
最大10日まで
レムデシビルの新型コロナウイルスへの作用と有効性
新型コロナウイルスは一般的にのどなどの上気道に感染し、細胞内に入り込んだ後、自らRNAという遺伝子をコピーして増殖していきます。
「レムデシビル」は、ウイルスがRNAをコピーする時に必要なRNAポリメラーゼを阻害する効果があります。これによりウイルスの増殖を抑え、症状を改善する効果が期待されています。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、各国の医療機関が共同で行っている臨床試験の一部を分析した結果、レムデシビルの投与を受けた患者は、投与されなかった患者よりおよそ4日早い11日で回復が早まったことが確認されたとしています。 マサチューセッツ内科外科学会から発行されている医学雑誌「NEJM」では、重症中心の53例(日本からの9例を含む)に対する投与により、36例(68%)で臨床的な改善がされた旨が報告されています。 |
しかし、日本では特例承認されましたが、世界ではまだ承認されていない国がほとんどで、有効性や安全性を評価する臨床データが少なく、現在も臨床試験を継続中です。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)とファビピラビル(商品名:アビガン)の違い
日本では2020年5月7日に「レムデシビル」が特例承認されましたが、この「レムデシビル」よりも先に「アビガン」という薬が、新型コロナウイルスに有効な可能性があると発表され、治験が進められてきました。
ファビピラビル(商品名:アビガン)とは
新型・再興型インフルエンザの治療薬として、厚生労働省からすでに承認されている薬です。現時点(2020年5月7日)では、新型コロナウイルスの治療薬としては承認されていません。
また、この薬の使用上の注意として「当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である」とされており、少し特殊な薬になります。その理由としては、開発の過程で実施した動物による安全性試験で胎児に奇形が生じる可能性が認められたため、日常臨床で使用するのは危険があると判断されたからです。
その結果、「アビガン」の場合は軽症者では高い割合で症状の改善が見られた一方で、重症者に対しての症状の改善は芳しくない状況でした。また「レムデシビル」の場合は重症者に対しての症状改善や改善までの時間の短縮が報告されています。
このことから、「レムデシビル」が優先され、急ピッチで国内承認に向けて検討が進められました。
しかし、「レムデシビル」は重症患者の症状改善や改善までの時間を短縮するという報告があった一方で、死亡率については変化がなかったという報告もあり、新型コロナウイルスの特効薬として期待するのは難しいという見解もあります。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)の安全性と副作用
添付文書上に記載されている副作用は、急性腎障害、肝機能障害、Infusion Reaction(低血圧、嘔気、嘔吐、発汗、振戦)がありますが、どれも頻度や因果関係は不明となっています。
それは特例承認で、安全性に関しての臨床データが少なすぎるためであり、もしかしたらそれ以外の副作用が発現する可能性もあります。
特に腎機能低下や肝機能低下が指摘されており、腎機能・肝機能について毎日検査を行うよう添付文書に警告文も記載されています。
また、臨床実験の段階では肝機能障害、下痢、皮疹、腎機能障害などの頻度が高く、重篤な副作用として多臓器不全、敗血症性ショック、急性腎障害、低血圧が報告されています。
そのため、今後はどの医療機関でも重症度を判断し、持病に合わせながら慎重に投与されると考えられます。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)の妊婦・小児への投与
妊婦への投与
妊婦や妊娠している可能性のある女性へのレムデシビルの投与は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとなっています。
妊娠ラット及びウサギを用いた胚・胎児への影響に関する試験で、レムデシビル20mg/kg までを静脈内投与した場合(主要血中代謝物(ヌクレオシド類似体)の全身曝露量(AUC)が国内承認用量投与時曝露量の 4 倍に相当)、胚・胎児発生に対する影響は認められなかった。雌ラットを用いた受胎能及び初期胚発生への影響に関する試験において、レムデシビル 10 mg/kg を静脈内投与した場合(主要血中代謝物(ヌクレオシド類似体)の全身曝露量(AUC)が国内承認用量投与時曝露量の 1.3 倍に相当)、黄体数・胚着床数・生存胚数の減少が認められている。 |
小児への投与
妊婦同様、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとなっています。
添付文書上の用量には、一応体重 3.5 kg 以上 40 kg 未満の小児への投与量が記載されていますが、現時点(2020年5月7日)では小児等を対象とした臨床試験は実施されていません。
そのため、小児の投与量は、小児患者における国内承認用法・用量は、生理学的薬物動態モデルによるシミュレーションに基づいて決定されています。
レムデシビルの世界での使用状況と評価
すでに、アメリカの米食品医薬品局(FDA)が2020年5月1日に「レムデシビル」の緊急使用を許可しています。それに続き、日本も5月7日に「レムデシビル」が特例承認されました。
現時点(2020年5月7日)では、感染が拡大しているヨーロッパでは「レムデシビル」の承認や認可はされておらず、今後の安全性と有効性を評価し、検討すると報道されています。
製造販売をしているギリアド・サイエンシズはどんな企業?
ギリアド・サイエンシズとは
アメリカ合衆国カリフォルニア州フォスターシティに本社を置く、世界第2位の大手バイオ製薬企業です。
1987年の創業以来、HIV、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザといった感染症治療のための抗ウイルス剤開発を事業の中心に、治療薬の発見、開発と商品化を行っています。
ギリアド・シエンシズ社は、レムデシビルを今秋までに50万人分、年内には100万人分を生産する目標を掲げており、すでに世界で14万人分(約150万回分)を無償で提供することを決めています。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)の価格・薬価
日本で使用される「レムデシビル」(商品名:ベクルリー)の薬価は現段階では未定です。
ギリアド・シエンシズ社は、レムデシビル14万人分(約150万回分)を世界中に無償で提供することを発表しており、当面はギリアド・サイエンシズ社から無償提供され、入院費も公費負担となるため、患者の費用負担は生じません。
特例承認された「レムデシビル」について、ギリアド・サイエンシズ社は当面薬価収載を希望せず、日本に無償提供する方針であり、厚生労働省はギリアド・サイエンシズ社が薬価収載を希望する場合は、年4回の薬価収載のタイミングにとらわれずに対応する考えを示しています。
承認後、いつから使える?レムデシビル(商品名:ベクルリー)の供給状況
ギリアド社は2020年10月までに50万人分、12月までに100万人分の生産量を目指し、世界で14万人分(約150万回分)を無償で提供することを発表しています。もちろん、日本へも無料提供されますが、日本への配分量は未定です。
そのため、増産体制が整うまでは臨床試験での使用や、世界各国からの要望、自国米国のための確保などがあるため、日本への配分が潤沢とはならない可能性があります。
また、注射薬のため、使用は病院などの医療機関に限られますが、厚生労働省は当面の間、国が薬の配分を管理し、重症患者を治療する医療機関に配る方針を示しています。
レムデシビル(商品名:ベクルリー)の薬剤師としての見解
「レムデシビル」(商品名:ベクルリー)は、2020年5月上旬までの臨床データを見ると、新型コロナウイルス感染の重症患者の、症状改善や症状改善時間を短縮できる傾向にありますが、劇的に症状が改善したり、死亡率を減少させるといった効果は少ないと考えられます。
また、有効性や安全性の臨床データが不十分であり、副作用として腎臓や肝臓の機能障害も報告されているため、使用には十分の注意が必要です。
現在、新型コロナウイルスについて、テレビ、インターネット、雑誌などいろいろな所で特集されていて、様々な情報があふれています。中には正しくない情報も含まれていることがあるので、厚生労働省などの適切なソースから情報を得ることも重要です。
新しい情報が入り次第、内容を訂正していきます。参考になれば幸いです。